制服着用で充たされる四条件(3)
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国際法において正規軍(常設軍)は制服着用が前提にあるすでに説明した通りですが、なぜ 「制服を着用する事でハーグ4条件を充たしているのか?」について考察してみます。
ハーグ陸戦法規第一条
第一条
戦争の法規及権利義務は単に之を軍に適用するのみならず左の条件を具備する民兵及義勇兵団にも亦之を適用す
一 部下の為に責任を負う者其の頭に在ること
二 遠方より認識得べき固著の特殊徽章を有すること
三 公然兵器を携帯すること
四 其の動作に付戦争の法規慣例を遵守すること
民兵又は義勇兵団を以て軍の全部又は一部を組織する国に在りては之を軍の名称中に包含す
出展
最近「国際法及び外交資料」 育成洞 松原一雄編
昭和17年12月初版 P224 より
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ハーグ要件の考察
「部下の為に責任を負う者其の頭に在ること」
この一文が条約に挿入された背景を説明します。普仏戦争(独仏戦争)1870−1871年当時の話ですが、不正規兵が適法の交戦者として扱われる為には「国家の認許」が必要であるという考え方がありました。
しかしこの基準ではいろいろと不都合が発生したので、国家の認許の代わりとして「部下の為に責任を負う者其の頭に在ること」が条約化されたのです。国家の認許がなくても「指導者の下で整然と交戦する団体」については交戦資格を認めようという意図の内容ですから、国家の法令で定められている正規軍(常設軍)に所属する事で一応の要件を充たしていることになります。次項の歴史的背景に関連記述がありますが、ここでは先に立作太郎学説を参照してみます。読み難いと思うので現代語風意訳を併記しました。 指揮官の条件
『戦時国際法論』日本評論社P63 立作太郎著 昭和19年7月初版
(一)の部下の為めに責任を負ふ者が其頭に在るを要するの条件は、頭に在る者が、正規的ならずして、一時的なりとも将校として任命を受けたる者なるとき、若しくは其の顕要の地位に在る者なるとき、又は隊中の将校兵士が政府の興ふる証明書又は徴章を携へ、之に依り各箇の将校兵士が自己の責任を以て行動する者に非ざることを示すに足るときは、充されたるものと認むるを得べきである。
但し国家に依る証人は、必ずしも必要とする所に非ずして、兵団が自ら編成され、自己の将校を選むことあり得べしと認められるのである。
| ちょっと読み難いので、必要な部分を補足して現代語風に訳してみます。
(筆者訳)
部下の為に責任を負う者・部隊の指揮官は必ずしも国家の認証を受けている必要はない。国家の認証とは無関係に兵団を組織してそこから指揮官を選ぶことも国際法上は認められていると考えられる。
(A)現在は正規の軍人ではないが一時的でも正規軍の将校として任命された人物の場合。(B)顕要な地位(重要な地位)にある人物。(C)団体構成員が政府から公式の許可を受けた証拠となる証書や標章を携帯し、さらに団体構成員が自己の責任で行動するのではなく、国家の許可を受け組織化された団体の一員として行動することが示されるとき。以上のような場合には第一条第一項の要件を充たす指揮官として認められるべきである。 |
条約で求められているのは、戦場において指揮官の下で整然と行動する事なので、実際に部隊を統制できる力量があれば指揮官として認められると考えられます。政府の許可証がある場合は、政府の指揮下にある正規軍に準じると考えられるようです。
ただし、指揮者の下で整然と行動しない場合については、交戦者特権が制限される事があります。具体的な例としては、指揮官の指揮する軍隊が交戦中であるにも関わらず、一部の部隊だけが投降・降伏の意思を表明した場合です。こういった場合相手国軍は安全を確保できませんから、状況により投降・降伏が認められない場合があります。これは何らかの事情で指揮系統が無くなり、整然とした行動ができず各部隊がバラバラに投降を申し出た場合も同様です。
正規軍の場合はその戦場で指揮系統が機能しない場合でも、最終的には正規軍に所属しているという事で要件を充たしているので交戦者資格が即消滅するという事はありません。義勇兵団なども基本的には同様ですが、団体を代表する指揮者が不在となった場合は別の代表者を立てなければなりません。
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「遠方より認識得べき固著の特殊徽章を有すること」
一般的には軍民分離の方法の一つとして考えられていますが。適法の武装団体に所属している事の証明にもなります。不正規兵は制服がない場合でも、私服の上などから固着のワッペンや腕章などをつける事と、公然と武器を携行する事(第三項)の二点を併用する事で、正規軍の制服に準じた軍民分離とみなして交戦資格の緩和を図ったものです。特殊標章だけでは軍民分離を行った事にはなりません。特殊の標章は、民間人と誤認されないような固有の制服があればその制服自体が特殊標章とみなされます。
制服と標章の関係
『戦時国際法提要』(上)照林堂書店 信夫淳平著 P381
固着の徽章は一定の制服に於いて最も善く表示せらるるが、必ずしも制服に限らるるのではなく、要は身体又は衣服に固着する徽章ならば可であり、直ぐ取り外れるようなものでなければ可いのである。
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「公然兵器を携帯すること」
上で説明したとおり軍民分離の方法の一つです。なぜ不正規兵に公然と兵器を携行する事が求められているのかというと、特殊の標章だけでは軍民分離の表示が不十分だからです。特殊標章(腕章やワッペンなどが想定される)の着用だけでは、戦闘員である事の表示としては不十分な為に、民間人などを装って攻撃を行う事が可能になる。それを避ける為に「公然と武器を携行」という要件が付されたと考えられます。軍民分離の表示として「特殊標章と公然兵器の携行はセット」と考えてよいでしょう。
「公然と武器を携行」について
『戦時国際法論』日本評論社P63 立作太郎著 昭和19年7月初版 拳銃、短刀、爆発物を身辺に隠蔽して携へ、又は仕込み杖、容易に組み又は解き得る小銃其他外部より兵器として容易に明知し難き兵器を携ふる如きは、所要の条件を充たさざるものである。又兵器を執りて抗敵を為し、敵の近づくに及べば、其兵器を隠蔽して平和的人民たるを装う如きも、所要の条件を充たさざるものと認むるべきである。
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実際に1977年のジュネーブ第一追加議定書では、正規兵・不正規兵の区別を廃止し、第二項(特殊標章の着用)と第三項(公然と武器を携行)が一つに統合されました。
第二項と第三項統合について
『国際法概説』第4版 有菱閣 P305 香西 茂・太寿堂鼎・高林秀雄・山手治之著作
先ずこの議定書では、従来の正規兵と不正規兵の区別を行わず、「部下の行動についてその国に責任を負う指揮の下にある、すべての組織された武装の兵力、集団および団体」を軍隊として一括した(四三条一項)。 これらの軍隊構成員は、戦闘員として敵対行為に直接参加する権利を有し(同条二項)、敵国の権力に陥った場合は捕虜として待遇される(四四条一項)。その際、従来の不正規兵の捕虜資格要件の第一と第四はそのまま維持されているが(四三条一項・四四条二項)、第二と第三とは一つに統合されて「攻撃に従事している間、または攻撃に先立つ軍事行動に従事している間、自己を文民たる住民から識別することができるようにする義務を負う」(四四条三項第一段)とされた。
| (日米共に第一議定書は未批准)
文民からの区別方法は定められていませんが、最低限「公然と武器を携行」する事が必要とされました。
第一議定書における不正規兵の軍民分離
『国際人道法』白水社P35 モーリストレック著 斉藤恵彦訳
人道法の重要な目標は、一般住民の保護である事を忘れてはならない。それゆえ戦闘員は、「攻撃に従事しているあいだまたは攻撃に先立つ軍事行動に従事している間、自己を一般住民から区別すべき義務を負う」(第44条第3項)(文民、非戦闘員の地位を装う事は、第37条1項Cによって、背信行為として糾弾される)。
ただし、敵対行為の性格のため、武装戦闘員が一般住民から区別しえない状況が武装紛争中に存在することが認められるので、そのような状況においてその者が、次の場合に、武器を公然と携行しているのならば、戦闘員としての地位を保持するものとする。
| (日米共に第一議定書は未批准)
第一議定書の成立過程から考えると、ハーグ陸戦法規第一条第三項「公然と武器を携行」する行為に求められているのは「軍民分離の表示」である事がわかります。正規軍人の場合は制服着用により第二項(特殊標章の着用)と第三項(公然と兵器を携行)を同時に充たしていると考えられます。 表現方法を変えると、第三項(公然と武器を携行)に求められた軍民分離については、別の方法(制服着用)ですでに充たしているので、正規兵に関する捕虜資格の条件としては問題にされないという事になるでしょう。
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「其の動作に付戦争の法規慣例を遵守すること」
特に説明の必要は無いかと思いますが、全ての交戦者は戦争の法規慣例に違反した場合、捕虜としては扱われず、戦時犯罪者として処罰されます。制服着用の正規軍人も例外ではありません。 制服を着用している事がそのまま交戦法規を遵守している証拠にはなりませんが、制服着用の場合、情報収集も敵対行為も合法になるので違法行為の幅がかなり狭くなります。特殊な事情(交戦法規違反の証拠)がなければ制服着用で交戦法規を遵守しているものと考えて問題ないでしょう。 不正規兵の場合は「公然と武器を携行しない」状態での情報収集・戦闘行為は違法ですから相対的に違法行為の幅が広いと言えます。
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ハーグ要件と正規軍の制服着用について
制服着用により第一項「部下の為に責任を負う者其の頭に在ること」が充たされているのは 上で説明した通りです。第二項「遠方より認識得べき固著の特殊徽章を有すること」が制服着 用で充たされる事は説明の必要もないでしょう。第三項「公然兵器を携帯すること」について条 約が要求しているの内容は軍民分離なので、正規軍の制服を着用している事で充たされてい ると考えられます。
もともと戦争は正規軍同士の戦闘というのが前提にあり、交戦資格者は正規軍に限られると いう時代が長く続きました。その後不正規兵へと交戦者資格を拡大していったのですから、正 規軍をモデルとして制服を着用していない不正規軍にどのような形で交戦者資格を与えるの かが議論された事になります。
言い換えると「政府公認」で「制服着用」という正規軍の要件を、制服なし、政府の公認なし で実現する方法として四条件が作成されたのですから、正規軍が制服着用によりハーグ四条 件を充たしていると考えるのはむしろ当然と言えるでしょう。
交戦者資格の拡大について
新版『国際人道法』増補 有信堂 藤田久一著作 P83
第二章
害敵手段・方法の規制
第一節交戦者資格
武力紛争において軍事行動ないし敵対行為は一般に軍隊構成員によって行われるが、交戦者資格は彼らに眼られるかどうか、あるいはそもそも戦争法・人道法はその資格を制限しているといえるかがまず問われる。
ところで、戦争法上交戦者資格が問題にされるようになるのは、正規軍のほかゲリラ兵やパルチザンの敵対行為参加が一般化する状況を背景としている。外国人雇兵や職業軍人を中心とした絶対王制時代、さらにフランス革命を契機に国民兵制度が普及した近代国家の初期の段階においては、交戦者資格をとりたてて問題にする必要もなかった。
この問題が直接論じられたのは、普仏戦争での francs-tireurs の経験の後に開かれた一八七四年ブリュッセル会議においてであった。
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普仏戦争での「 francs-tireurs 」というのはフランス軍の遊撃隊の事です。この辺りの経過 からブラッセル会議の内容については次ページで説明します。
交戦兵力の種別
交戦兵力の区分について説明すると、ハーグ陸戦法規では、常設軍、民兵、義勇兵、群民 蜂起(民衆軍)という区分けになります。常設軍を正規軍と呼ぶ場合が多いのですが、常設軍 が正規軍の全てではありません。当HPで正規軍という用語が常設軍を表す場合には( )書 きで追記するようにしています。
常設軍・常備軍は国家(政府)の法令によって定められた交戦上の訓練と装備を有する正規の団体で、常設されている場合を言います。一般に正規軍(armies)と呼ばれます。構成者は職業軍人です。入隊条件や編成方法は各国の国内法によって定められます。志願兵制度、徴兵制度、人種、性別等の制限はすべて各国の国内法によって規定されます。
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民兵(Militia)は平時には常備の軍隊を構成しない者が、戦時に召集を受けて交戦に従事する場合を言います。国家が正規軍として認許した場合は正規軍になります。
| 義勇兵(Volunteer corps)は、戦時において自国の為、あるいは他国の為に志願して交戦する者で、民兵と違う点は強制召集ではない点です。国籍などの制限もありません。編成を行うのは政府とは限らず、各地方における有力者の下に集う場合もあります。国家が正規軍として認許した場合は正規軍になります。
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群民蜂起・民衆軍(levee en masse)は、ハーグ陸戦法規第二条の要件において、占領されていない地方の人民が自発的に武器を取って集団で交戦を行う場合を言います。指揮官の存在は必要とされていませんが、集団での活動が前提とされています。制服の着用や特殊標章着用の義務はありませんが、公然と武器を携行する事での軍民分離が条件となっています。
第二条
占領せられざる地方の人民にして敵の接近するに当り、第一条に依りて編成を為すの暇なく、侵入軍隊に抗敵する為自ら兵器を操るものか公然兵器を携帯し、且戦争の法規慣例を遵守するときは之を交戦者と認とむ |
緊急時である事が条件の一つです。交戦者資格が二条件(実質的には公然と武器を携行だけ)と大幅の緩和されていますが、編成場所や活動場所が大きく制限されています。条約で示された地方は(territory)で、個別の都市や村落に限定したものではなく、もう少し広い概念になりますが、群民兵として他の地方に出向く事はできません。すでに占領された地方での蜂起は認められません。群民蜂起がハーグ四条件を充たす形で組織化されれば民兵団や義勇兵団となり得ます。
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上記分類に当たっての主な参考資料、『戦時国際法提要(上)』信夫淳平著、『国際法要論(戦時)』遠藤源 六著、『戦時国際法要論』高橋作衛著、『戦時国際法論』立作太郎著、『国際法辞典』筒井弱水編。個々の 記述の引用は煩雑になるので省略した。
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