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ハーグ要件成立の歴史的背景(4)

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正規軍の制服着用について(1)
正規軍の制服着用について補足(2)
制服着用で充たされる四条件(3)
ハーグ要件成立の歴史的背景(4)
交戦者資格の疑問・不正規兵は不利か?(5)


 最近の国際法の書籍では交戦者の資格について、第二次世界大戦の後のジュネーブ条約
(第一議定書など)の解説が主になっているようです。同条約では軍民分離の条件が大幅に
緩和されています。その為、ハーグ条約下における正規軍の制服着用や不正規兵の四条件
成立についての歴史的過程が説明されない事が多いようなので、このページでは遠藤源六博
士の記述を元にしてハーグ4条件の成立過程を追ってみます。



『国際法要論』(戦時)P695-697 清水書店 遠藤源六著
大正2年12月第5版

 一国が正規軍隊を編成し交戦機関と為すも、又は不規則軍隊を以って之に当たらしむるも全く各国の自由に属するを以って、義勇兵亦戦闘者たるを失はずと雖も、表面平穏の通常人民たることを装ふて突然に敵に襲撃を加ふるが如きは、一方の交戦者に取り非常の危険と謂わざるべからず。

 従て之を無条件に認むるときは交戦者は正当防衛上総て敵国人民に対して兵力を用いざるを得ざるに至る。然るときは戦争は古代の野蛮的殺戮に復して悲惨の害毒を流し、文明人道を全然破壊するに至るべきを慮り、且つ略奪品を事とする団体(支那馬賊の如き)が戦闘者に混入して死傷軍人の金品を剥奪することを予防する為不規則戦闘者と雖も普通人民と区別すべき標準を必要とするに至れり。

(原文はカタカナ。句読点は適時追加した。旧漢字は修正した部分もある)

 常設軍(常備軍)を国防の根幹にするのか、非常時に収集する民兵制度を採用するのか、は
たまた義勇軍をもって国軍を担当するのか、それは各国の自由で国内法の問題となります。
(信夫学説参照)

 ただし、常設軍(正規軍)であろうと、義勇兵であろうと民間人を装って攻撃する事は認めら
れません。これが大前提と言えます。便衣兵戦術(私服でのゲリラ活動)を無条件に認める場
合は、交戦国は市民と敵対行為者の区別が困難になり、敵国民全員を敵とみなし攻撃の対象
とする結果になるからです。遠藤博士はこれを正当防衛になぞらえています。




 正規軍は一般に制服着用による軍民分離が行われているという前提があるので「不規則戦闘者と”いえども”」民間人と区別する必要が求められたという事になります。



『国際法要論』(戦時)P695-697 清水書店 遠藤源六著
大正2年12月第5版

〜戦闘者に混入して死傷軍人の金品を剥奪することを予防する為不規則戦闘者と雖も普通人民と区別すべき標準を必要とするに至れり。

 この標準として第一に使用せられたるは即ち国家の認許(Autorisation)なり。是れ戦争は国家間の政治的闘争なるを以って、之に従事する者は国家の意思を行う者ならざるべからず。故にいやしくも国家の認許を受くる時は之を戦闘者として取り扱うべきも、全く国家の意思に基かずして兵器を弄する者は私闘強賊なりと云うに在り。然れども家の認許を必要とする条件は実行し難き場合あり

(原文はカタカナ。句読点は適時追加した。旧漢字は修正した部分もある)
(注 文中2行目「区別すべき標準」、三行目「この標準」共に原文ママ)

 軍民分離の基準は当初、国家の認許でした。所属国家によって交戦者資格(捕虜資格)が
与えられるという考え方です。しかしこの理論には不都合がありました。





『国際法要論』(戦時)P695-697 清水書店 遠藤源六著
大正2年12月第5版

 特に内国戦争又は独立戦争の如き場合に於いては従来の政府又は主国の政府はこの如き認許を興へず、之を反賊として処分すべきは当然なるを以って、理論上戦争なきに至り不都合なるが故に、米国の独立戦争、スイス連邦戦争又はイタリア統一戦争の如き皆国家の公許なき場合と雖も一定の条件を充たし交戦者と認めらるるに至れば之を戦闘者と看做すべきものとせり。

(原文はカタカナ。句読点は適時追加した。旧漢字は修正した部分もある)

 内戦や独立戦争の場合、既存の政府は、(政府から見た)反乱軍・独立軍に対して認許を与
えませんから、反乱軍は捕虜資格を得られず犯罪者として処罰されてしまいます。また、敵国
の侵攻に対して抗敵する為に国家の認許が必須であるとするならば、緊急時における国土の
防衛に支障が出てきます。
 こういった事情も配慮され、アメリカの独立戦争やスイス連邦戦争、イタリアの統一戦争など
では国家の認許がない場合でも一定の条件を満たしていれば戦闘者(交戦資格者)と見做し
たようです。前置きが長くなりましたが、交戦者資格に国家の認許が不必要になった理由がお
分かりいただけたと思います。






『国際法要論』(戦時)P695-697 清水書店 遠藤源六
大正2年12月第5版

  又国家の認許ある場合においてもその国の軍隊として取り扱うべきか否やに関し議論を生ずる事あり。
 之に付き1870年の普仏戦争中に実例あり。即ち仏国の義勇兵及び護国兵をドイツは戦闘者と認めさりき。その理由は該兵卒の制服たる青服は仏国農民の常服と一見識別しがたく又その赤筋は往々これを付着せざる者あるのみならず何時にても取り外しを為し得べし。

 又遠方より之を識別すること能はざるが以って、敵対を為す者と然らざる者との区別を為す事は能はずという云うに在り、仏国は之を持って国法に依り組織せられる一定の制服を有するを以って国家の軍隊なりと主張したるもドイツは遂にこれを承認せざりき於是がドイツの処置に付き国際法上の問題起り、カルヴォー、ブンルンチュリー、ローラン、ジャクミン等、盛に是を論議せる。

(原文はカタカナ。句読点は適時追加した。旧漢字は修正した部分もある)

 そろそろ本題です。普仏戦争(独仏戦争)においてすでに制服着用が問題になっています。
1870年の段階で、交戦者の資格として「制服」が国際的に重要な要件と見られていた事がわ
かります。
 フランスの義勇兵らは「制服を着用」していましたが、それは(1)農民の普段着と識別が困難
だった。(2)軍民の区別を行う為の「赤線(標章)」は取り外しが自由だった。以上の事からドイ
ツ軍はフランスの義勇兵・護国兵について軍民分離が適切に行われていないという理由で交
戦者資格を認めなかったようです。

 一方でフランス側は、「(A)制服は遠くから軍民を識別する目的のものではない。(B)国家
が定めた制服を着用していれば、それは国家が認めた戦闘者であり、国家によって交戦者資
格を与えられた者である」と主張したようです。




 論点の対立は、交戦者資格は所属国家が与える(認定)するものか、または「制服着用」を条件に相手側が認定するものか、という部分にシフトしてきました。いずれにしても制服着用が前提条件となっています。









『国際法要論』(戦時)P695-697 清水書店 遠藤源六
大正2年12月第5版

 是がドイツ処置に付き国際法上の問題起り、カルヴォー、ブンルンチュリー、ローラン、ジャクミン等、盛に是を論議せる。
 
 其の結果千八百七十四のブラッセルの公会に於ては、この問題第一に起りしが、露国の提議に基き国家の認許と云う条件に代ふるに責任者ある統率者ある事を以って要件となし、かつ遠方より識別し得き標章と公然武器を携行すること及び、戦争の法規慣例を遵守する事の四条件(第九条)を以って戦闘者の標準となし、千八百八十八年のオックスフォールドに於ける万国国際法学会の決議に於いても第二条第二項には全く同一の規定をなせり。又千八百九十九年第一回平和会議に於て約定したる陸戦法規の法規慣例に関する規則にも亦この規定を採用し第一条第二条に次の如く規定せり。


(原文はカタカナ。句読点は適時追加した。旧漢字は修正した部分もある)

 ブラッセル会議、オックスフォード万国国際法学会と議論され、1899年の第一回ハーグ会議で陸戦法規
が国際条約として成立しました(第二回ハーグ会議は1907年)。交戦者資格についてはブラッセル案がほ
ぼそのままハーグ条約第一条、第二条になりました。


 普仏戦争(独仏戦争)で問題になった国家の認許は交戦者資格とは無関係となり、その
代わり「部隊の責任者」を置くことが条件となりました(第一項)。また軍民の区別をする事が義
務となりました(第二項、第三項)。第一項との関連から交戦法規の遵守が条件に明示されま
した(第四項)。



ここで重要なのは、交戦者資格(捕虜資格)を判断する権限は捕獲した国にある事が国際法上のルールとして定まった事です。ハーグ要件を充たしていない兵士については、その兵士が国家の認許を受けているか否かに関わらず、捕虜資格を否定して戦時犯罪者として扱える事国際的なルールーとして確立した事になります。

 


 以上簡単に交戦者資格成立の歴史的背景を追ってみました。近代においては正規軍に制
服着用が求められなかった時代はなく、軍民分離の意味合い以外にも、国家の認めた兵士と
いう意味で正規軍は制服の着用が前提であった事が理解いただけたと思います。





ハーグ陸戦法規第一条、第二条
第一条
 戦争の法規及権利義務は単に之を軍に適用するのみならず左の条件を具備する民兵及義勇兵団にも亦之を適用す
  一 部下の為に責任を負う者其の頭に在ること
  二 遠方より認識得べき固著の特殊徽章を有すること
  三 公然兵器を携帯すること
  四 其の動作に付戦争の法規慣例を遵守すること
 民兵又は義勇兵団を以て軍の全部又は一部を組織する国に在りては之を軍の名称中に包含す

第二条
 占領せられざる地方の人民にして敵の接近するに当り、第一条に依りて編成を為すの暇なく、侵入軍隊に抗敵する為自ら兵器を操るものか公然兵器を携帯し、且戦争の法規慣例を遵守するときは之を交戦者と認とむ
 
出展 
最近「国際法及び外交資料」 育成洞 松原一雄編
昭和17年12月初版 P224 より
(カナ使いや一部の旧漢字は訂正した。句読点は適時追加した)
(注 第二条の赤文字部分、公然兵器を携帯は第二回ハーグ会議で追加された)


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