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正規軍の制服着用について補足(2)

交戦資格関係メニュー
正規軍の制服着用について(1)
正規軍の制服着用について補足(2)
制服着用で充たされる四条件(3)
ハーグ要件成立の歴史的背景(4)
交戦者資格の疑問・不正規兵は不利か?(5)


 前ページは「正規兵0条件説=正規軍は私服でも交戦者資格を失わない説」で引用される
藤田教授の「国際人道法」の読み方を解説しました。藤田教授自身も注釈で「正規の軍人は
一般に制服着用を必要とする」としていますから、正規軍は制服を着用している事が前提条
件にある事がわかります。
  つまり(というよりも当たり前ですが)藤田教授も正規軍が0条件であるとは考えていない事
になります。藤田教授の記述は、正規軍は国際法の要求する基準を一般に充たしているとい
う前提で、正規軍に所属する個人に対しては無条件に交戦者資格が与えられるという意味と
考えて問題ないでしょう。

 このページでは、なぜ正規軍は(一般に)制服着用の義務があるのか、について解説してみ
たいと思います。交戦者資格についての議論は、いわゆる1977年の「ジュネーブ第一追加
議定書」の成立過程においてかなり綿密にされているので参考にしてみましょう。同議定書で
は交戦者資格についてハーグ陸戦法規、1949年のジュネーブ4条約よりも大幅に緩和されて
いるのが特徴の一つです(ちなみに追加議定書は日米ともに批准していません)。



正規軍(常設軍)は制服着用が前提(1)
ジュネーブ追加第一議定書の成立過程
『国際人道法の再確認と発展』 東信堂P232 竹本正幸著

 まず第一に、捕虜資格の要件は正規兵と不正規兵とを区別せずに単一の基準を定めるべきか否か、という問題があった。

 一方では、捕虜待遇を享有しうるための最低限の要件は、文民からの区別であって、その点では正規兵も不正規兵も何ら差違はないのであるから、両老に同一の要件を課す一律の規定を設げるべきである、と主張された。

 この主張の背景には、前記の第一条四項から解放戦土には無条件に捕虜待遇を与えるべきであるという解釈や、民族解放戦争は正義の戦争であるから解放戦土には植民国の正規兵よりも有利な待遇を与えるべきであるという主張、が出てくるのを回避しようとする考えが存在していた。

 捕虜待遇つまり交戦者資格を得るための最低要件「文民からの区別」つまり軍民分離
である事が前提になっている事がわかります。第一追加議定書では以上の点を考慮し、交戦
者資格を大幅に緩和しましたが戦闘者に対しては「文民からの区別」をする事が求められてい
ます。また、正規軍については第44条7項において以下の規定が置かれてます。




正規軍(常設軍)は制服着用が前提(2)
ジュネーブ追加第一議定書条文
『国際人道法の再確認と発展』 東信堂P232 竹本正幸著より
第一追加議定書第44条第7項

 7 本条は、紛争当事国の正規の制服着用部隊に割り当てられた戦闘員が制服を着用する事に関して、諸国の一般に受け入れられた慣行を変更しようと意図するものではない。

 正規軍による制服の着用が「一般に広く受け入れられた慣行」である事が条約で認めら
れています。正規軍は一般に制服を着用しており、制服がない場合(民兵、義勇兵を正規軍と
する場合など)でも特殊標章による軍民分離は義務となっています。つまり、正規軍がなんら
かの方法で軍民分離の表示をする事は国際慣習法で定まっていたと言えるでしょう。




正規軍(常設軍)は制服着用が前提(4)
ジュネーブ追加第一議定書の成立過程
『国際人道法の再確認と発展』 東信堂P236 竹本正幸著

 第四に、戦闘員が自己を文民から区別しなかった場合に捕虜待遇を享有しうるか否か、の間題があった。西欧諸国は、そのような場合には捕虜資格を認めないのが現行国際法の規則であり、捕虜資格が与えられないという心理的圧迫によって文民からの区別を戦闘員に守らせることが可能になる、と主張した。
 

 第一追加議定書以前の国際法では「戦闘員が自己を文民から区別しなかった場合」につい
ては交戦者資格(捕虜資格)を認めないというのが一般的な解釈であった事が分かります。
つまり正規軍であるか否かを問わず、戦闘員が軍民分離の表示しなければならない事はハー
グ陸戦法規や国際慣習法で定まっていたと言えます。
 

 


 結 論

 正規兵が軍民分離の表示(制服着用など)を行わない場合、相手国は国
際法を根拠に交戦者資格(捕虜資格)を否認する事ができる。逆に言うと、
正規軍による軍民分離の表示(制服着用など)は慣習法によって定められ
ているという事にもなる。


 




 

 1970年代の議論は以上のようなものです。念のため、ハーグ法規に関する制服着用記述
の検証してみたいと思います。



正規軍(常設軍)は制服着用が前提(5)
遠藤学説
『国際法要論』(戦時)P692 清水書店 遠藤源六著
大正2年12月第5版
(筆者注 交戦者資格について)

 要するに正則戦闘者は一国の法令に基き軍隊を編成したる者を指称するするものにして其の制服、紀律、訓練等、厳正なるのみならず、何人と雖も一見某国軍隊たることを認識しべき特殊の表識を有するが故に、之に付ては特に困難なるなし。然れども法令に依り編成せられたる軍隊に属せざる者にして戦闘に従事する者に付ては議論あり。

(原文はカタカナ。句読点は適時追加した。旧漢字は修正した部分もある)
(注 文中の「紀律」 「表識」は原文ママ)

 国家が正規軍(常設軍)は、一見して国家が運営する正規軍隊構成者と判別できる制服を
着用しているから、戦場における法規慣例の遵守など必要な規律を守るように訓練されてい
るとみなされる。だから、制服着用の正規軍に交戦者資格を与える事に「困難はない」という
意味の記述がされています。正規軍の交戦者資格は制服着用が前提となっている事がわか
るでしょう。
 
 



正規軍(常設軍)は制服着用が前提(6)
ハーグ陸戦法規の解説

ハーグ陸戦法規でも正規軍は制服着用が前提となっています。
第二章 間諜
第二九条
 交戦者の作戦地帯内において、対手交戦者に通報するの意思をもって、隠密に又は虚偽の口実の下に行動して、情報を収集し又は収集しようとする者に非ざれば、之を間諜と認める事を得ず。
 故に変装せざる軍人にして情報を収集しようとして敵軍の作戦地帯内に進入したる者は、之を間諜と認めず。(以下略)

(注 一部口語に訳した)

 「変装しない軍人」については間諜(スパイ)とは認めないという事です。では「変装しない軍人」の服装はどういったものでしょうか?。学説を見てみます。


『戦時国際法提要』(上)照林堂書店P659 信夫淳平著

 戦時に交戦国双方の軍人が互いに敵の目を避けつつ動作するにしても、服着用にて、即ち偽装するに非ずして、敵情偵察に従事する限りは、たとひその行為が情報収集の為であり、將た敵軍の作戦地帯内におけるものであっても、単に偵察者を以って論じ、間諜とはみなさない。
 この事はブルッセル宣言案第二十二条に明記せる外、同会議の議事録にも『制服着用の兵士は適法に偵察を為す所の斥候と認めらるべし。但し偵察のために敵の制服を着用し、その他如何なる方法に依るを問はず偽装して之を行う者は間諜として之を取り扱うべし。』と記し、陸戦法規慣例規則も之を採りて第二十九条第二項にそのことを明記したのである。

『戦時国際法論』日本評論社P244 立作太郎著

 上述の間諜の行為の成立する為の条件中、隠密に行動し又は虚偽の口実の下に行動するの条件は、実際の場合につきて最も問題となるべき所である。此条件は。制服を著けたる軍人が、他人に依る発見を避けつつ密かに偵察を為す場合には、具備すると認められぬ所である。

 「変装しない軍人」というのは「制服を着用した状態」である事がわかります。ハーグ陸戦法規においても、正規軍人は制服を着用しているという前提で条約が作成された事がお分かりいただけるでしょう。特にブラッセル会議の議事録で明確に「制服着用」が記されており、同時に偽装した場合は交戦者資格が否認されるとしています。

 

 以上のように、正規軍は制服着用が前提であり、それは国際的なルールとしてすでに確立し
ていたと言えます。制服着用による情報収集は偵察・斥候として相手国が捕獲しても犯罪とし
て処罰できません。しかし私服などで偽装した状態であれば、交戦者資格を喪失している状態
での情報収集行為を犯罪として問うことができます。
 同じような理屈で処罰を受ける例に便衣隊があります。制服着用での戦闘行為が適法なの
は説明するまでもないでしょうが、民間人などに偽装した状態で敵対行為を行うと、交戦者資
格がない状態での武力行使(便衣兵)として処罰されます。学説を見てみましょう。
 


『戦時国際法提要』(上)照林堂書店P398 信夫淳平著

 近代にありて最もうるさい便衣隊の出没を見たのは、昭和七年の上海事変の際であった。この事変の勃発したる当時、我が海軍陸戦隊の歩哨兵、通行兵、その他在留邦人にして支那便衣隊のために不測の危害を受けた者は少なからずあった。彼らの中には学生あり、労働者あり、将た正規兵の偽装せるもありて、その或者は当時主として皇軍に敵抗せる支那十九路軍の指揮を直接に受け、或はその傍系に属し、或は軍外の特定団体の使嗾の下に行動するが如く、その系統は一様ではなかった。

 正規兵も偽装すると便衣兵・便衣隊となります。



『戦時国際法提要』(上)照林堂書店P400 信夫淳平著

 然るに便衣隊交戦者たる資格なきものにして害敵手段を行ふものであるから、明らかに交戦法規違反である。その現行犯者は突如危害を我に加ふる賊に擬して、正当防衛として直ちに之を殺害し、又は捕へて之を戦律犯に問ふことは固より防げない。

 偽装した軍人(便衣兵)には交戦者資格がない事が示されています。敵対行為を行う事によ
って交戦者資格が喪失するのではなく、偽装した状態(私服の状態)では交戦者資格がない
から、敵対行為が犯罪となるのです。




『戦時国際法論』日本評論社P62 立作太郎著 昭和19年7月初版
 
 上述の正規の兵力に属する者も、不正規兵中、民兵又は義勇兵団に後述の四条件を備へざることを得るものではない。正規の兵力たるときは、是等の条件は、当然是を具備するものと思惟せらるるのである。
 正規の兵力に属する者が、是等の条件を欠くときは、交戦者たるの特権を失うに至るのである。

 例へば、正規の兵力に属する者が、敵対行為を行ふに当たり、制服の上に平人の服を着け又は全く交戦者たるの特殊徽章を付したる服を着せざる時は、敵に依り交戦者たる特権を認められざることあるべきである。


 正規軍人であっても、民間人などに偽装した状態では交戦者資格が得られません。交戦者資格(捕虜資格)を判断するのは相手側(捕獲国)ですから、これは当然の事と言えるでしょう。


 

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