不正規兵の交戦者資格(捕虜資格)については意外とまとまった解説が無く、占領地におけ る捕虜資格については勘違いされている場合も多いようです。 甚だしい場合には「正規軍よりも不正規兵が不利なのは条件面によるものである。不正規兵 は四条件(民兵団・義勇兵団)あるいは二条件(群民蜂起)が課せられているが、正規軍は 0条件(要するに制服着用の必要がない)」と解釈する方もいるようですので、簡単ですが不 正規兵の交戦者資格につい考察してみたいと思います。 これまでのページで、国家が保持する正規軍については、国際法の範囲内で編成されてい る事がお分かりいただけたと思います。学説上、正規軍はハーグ四条件を充たしているという 前提があります。民兵団・義勇兵団について課せられた条件も四条件ですから、正規軍と同 等、もしくは軍民分離が制服でなくてもよい、という意味で考えると若干緩和されているように 思えます。群民蜂起(民衆軍)については二条件ですから正規軍に比べると大幅に緩和され ている事になります。交戦資格を得るに当たっては不正規軍のほうが容易いという印象があり ますが、藤田教授の著作では「不正規軍は正規軍よりも不利な条件で」交戦者資格が得られ たとしています。この点について考察してみます。
占領地における不正規兵の交戦者資格に「言及がない」という事は条約で認められていな かったという事になります。つまり、被占領地域内において適法に抵抗活動ができるのは正規 軍に限られていたという事です。意外と勘違いされている場合が多いのですが、ハーグ陸戦条 約ではハーグ四条件を満たした不正規兵(民兵団や義勇団)であっても占領地域内で敵対 行為を行った場合については、交戦資格者として認められず「戦時反逆」として処罰が可能で した。(占領地域内で敵対団体が組織された場合、占領軍はこれを犯罪として摘発する権利が 認められていた)。ただし前のページで説明したように(民兵団や義勇軍が母体であっても)国 家が認めた正規軍であれば、敵軍の占領地域内においても交戦資格は喪失しません。 また、群民蜂起(民衆軍)の場合はハーグ陸戦法規第二条に「占領されていない地方の住 民」で、「敵軍が接近するに当たり」とありますから、既に占領された場所での敵対行為は要件 に該当しませんのでやはり軍律違反の犯罪行為、「戦時反逆」として処罰されました。これらの 反省から、ジュネーブ第三条約においては、元来被占領地では認められていなかった民兵 団、義勇兵の交戦資格について、被占領地域においても認められるように拡大されたのです。
ハーグ条約下で不正規軍が不利だった点の一つは1949年のジュネー ブ四条約で修正された事になります。 捕虜資格を判断するのは、兵士の捕獲国である事は前ページで説明しました。逆にいうと、 捕獲国に対して「交戦者資格(捕虜資格)を充たしている」という事を理解してもらわなければ 捕虜として保護を受けることはできないわけです。 相手側に捕まった時に正規軍であれば(一般的に)制服を着用しているので交戦資格者とみ なされ捕虜として扱われますが、民兵・義勇兵団の場合はハーグ四条件を満たしている事を 証明しなければ捕虜として扱われないという点で不利になると考えられます。軍事行動にあた って武器を隠し持っていた場合などには、状況により捕虜資格が与えられない可能性がありま す。 不正規兵の中でも軍民蜂起(民衆軍)については、交戦資格を得る条件として二条件(公然 と武器を携行し、戦争の法規起慣例を守る)と大幅に緩和されていますが、制服の着用がな く、特殊標章の着用も義務とされていないので、集団からはぐれて相手側に捕まったときは交 戦資格を満たしている証明が困難になります。この点で不利となる場合もあるでしょう。
(注 群民蜂起は単独個人の抗敵には適用されないという解釈が一般的で、条約文に「占領せられざる地方 の人民」とありますが、人民の仏文は”La population"、英文”The inhabitants"と集団である事が前提とされ ています。「群民」とされているのはその為です) こういった不正規軍についての不具合は、ジュネーブ第一追加議定書43条で”大きく”修正 されました。簡単に説明すると「軍隊」の定義が拡大され正規軍・不正規軍の区別をなくすと同 時に特殊標章の着用の義務は廃止されました。第44条3項では≪ただし、敵対行為の性格 のため、武装戦闘員が一般住民から区別しえない状況が武装紛争中に存在することが認めら れるので、そのような状況においてその者が、次の場合に、武器を公然と携行しているのな らば、戦闘員としての地位を保持するものとする。『国際人道法』P35 モーリストレッリ著 斉藤恵彦 訳 白水社≫という風に不正規兵の交戦資格を最低限「公然と兵器を携行」する事で認められ るとしました。
ハーグ条約第一条一項には「部下の為に責任を負う者其の頭に在ること」とあります。このリ ーダー(指揮官)の条件について、ブラッセル会議でのロシア案では「本国、本営よりの指揮命 令の下に立つものたるを要す(戦時国際法提要 P380)」というものでしたが、これは不採用とな って、ハーグ条約では「部隊の指揮統制ができるならば特に条件はない」という解釈で条約化 されました。 この結果、不正規軍(民兵団・義勇兵団)の中でも「国家の指揮下」にある場合は正規軍(あ るいは正規軍の一部として)活動できましたが、「民間人の指揮下」にある場合など国家の認 許をうけていない場合は住民の抵抗運動として扱われ、占領地域内では占領軍に対する敵対 団体の組織自体が犯罪として処罰されたのです(1949年ジュネーブ四条約で修正されて占 領地でもハーグ要件を充たしていれば交戦者として認められるようになった) もちろん、民兵団・義勇兵団が占領地域の外側で組織された場合は適法ですし、占領地域 外から相手側の占領地域攻撃を行い、相手側の占領地に戦線が移動する事もあるでしょう。 この場合、戦闘が行われているのは(厳密にいうと)敵味方入り乱れる作戦地域になりますか ら、戦時犯罪として扱われる占領地における敵対行為には該当しませんので、民間人の指揮 する義勇兵団などでも交戦資格の喪失はありません。
|