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交戦者資格の疑問・不正規兵は不利か?(5)


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正規軍の制服着用について(1)
正規軍の制服着用について補足(2)
制服着用で充たされる四条件(3)
ハーグ要件成立の歴史的背景(4)
交戦者資格の疑問・不正規兵は不利か?(5)


 不正規兵の交戦者資格(捕虜資格)については意外とまとまった解説が無く、占領地におけ
る捕虜資格については勘違いされている場合も多いようです。
 甚だしい場合には「正規軍よりも不正規兵が不利なのは条件面によるものである。不正規兵
四条件(民兵団・義勇兵団)あるいは二条件(群民蜂起)が課せられているが、正規軍は
0条件(要するに制服着用の必要がない)」と解釈する方もいるようですので、簡単ですが不
正規兵の交戦者資格につい考察してみたいと思います。


 

 
 これまでのページで、国家が保持する正規軍については、国際法の範囲内で編成されてい
る事がお分かりいただけたと思います。学説上、正規軍はハーグ四条件を充たしているという
前提があります。民兵団・義勇兵団について課せられた条件も四条件ですから、正規軍と同
等、もしくは軍民分離が制服でなくてもよい、という意味で考えると若干緩和されているように
思えます。群民蜂起(民衆軍)については二条件ですから正規軍に比べると大幅に緩和され
ている事になります。交戦資格を得るに当たっては不正規軍のほうが容易いという印象があり
ますが、藤田教授の著作では「不正規軍は正規軍よりも不利な条件で」交戦者資格が得られ
たとしています。この点について考察してみます。

占領地域内では認められていなかった
不正規兵の交戦資格


新版『国際人道法』増補 有信堂 藤田久一著作 P84

 これは、交戦者資格について、いわば無条件の正規軍と条件付の不正規軍(兵)という二元構想が戦争法上確立されたことを意味しよう。このことは、当時の戦争において正規兵の戦闘が一般であり、不正規兵によるゲリラ戦は例外とみなされていた状況および西欧諸国中正規軍を編成する国が多数を占めていたことを反映している。このように、不正規軍は正規軍より不利な条ではじめて後者と並ぶ交戦資格を得ることができたといえる。
 
 さらに問題なのは、交戦者資格を認められる不正規兵の範囲についてである。ブリュッセル宣言案にもハーグ規則にも、占領地において占領軍に抵抗する人民の交戦者の資格については全く言及がない。

 占領地における不正規兵の交戦者資格に「言及がない」という事は条約で認められていな
かったという事になります。つまり、被占領地域内において適法に抵抗活動ができるのは正規
に限られていたという事です。意外と勘違いされている場合が多いのですが、ハーグ陸戦条
約ではハーグ四条件を満たした不正規兵(民兵団や義勇団)であっても占領地域内で敵対
行為を行った場合については、交戦資格者として認められず「戦時反逆」として処罰が可能で
した。(占領地域内で敵対団体が組織された場合、占領軍はこれを犯罪として摘発する権利が
認められていた)。ただし前のページで説明したように(民兵団や義勇軍が母体であっても)国
家が認めた正規軍であれば、敵軍の占領地域内においても交戦資格は喪失しません。

 



 また、群民蜂起(民衆軍)の場合はハーグ陸戦法規第二条に「占領されていない地方の住
民」で、「敵軍が接近するに当たり」とありますから、既に占領された場所での敵対行為は要件
に該当しませんのでやはり軍律違反の犯罪行為、「戦時反逆」として処罰されました。これらの
反省から、ジュネーブ第三条約においては、元来被占領地では認められていなかった民兵
団、義勇兵の交戦資格について、被占領地域においても認められるように拡大されたのです。


『国際法概説』[第4版] 有菱閣 2001年6月第4版
香西 茂・太寿堂鼎・高林秀雄・山手治之著作 P305

 ただし、民兵隊および義勇隊に交戦資格が認められるのは、占領地域外で行動する者に限られ、占領地域内においては占領軍に対する住民の抵抗運動は、その形態の如何を問わずすべて戦時反逆として処罰された。ところが、第二次大戦中のパルチザンの経験により、交戦者資格を拡げる必要が問題となり、一九四九年の捕虜の待遇に関するジュネーブ条約(第三条約)第四条は、ハーグ陸戦規則第一条の規定する四つの要件を具備する限り、紛争当事国に属する民兵隊または義勇隊(組織的抵抗運動団体を含む)の構成員で占領地域内で行動するものにも正式の交戦資格を認めた(四条A項[2]。なお、群民蜂起も従来同様に認められる−同条A項[6])。
 

 
 ハーグ条約下で不正規軍が不利だった点の一つは1949年のジュネー
ブ四条約で修正された事になります。




不正規兵が捕虜と判断されるには?

 捕虜資格を判断するのは、兵士の捕獲国である事は前ページで説明しました。逆にいうと、
捕獲国に対して「交戦者資格(捕虜資格)を充たしている」という事を理解してもらわなければ
捕虜として保護を受けることはできないわけです。
 相手側に捕まった時に正規軍であれば(一般的に)制服を着用しているので交戦資格者とみ
なされ捕虜として扱われますが、民兵・義勇兵団の場合はハーグ四条件を満たしている事を
証明しなければ捕虜として扱われないという点で不利になると考えられます。軍事行動にあた
って武器を隠し持っていた場合などには、状況により捕虜資格が与えられない可能性がありま
す。

 不正規兵の中でも軍民蜂起(民衆軍)については、交戦資格を得る条件として二条件(公然
と武器を携行し、戦争の法規起慣例を守る)と大幅に緩和されていますが、制服の着用がな
く、特殊標章の着用も義務とされていないので、集団からはぐれて相手側に捕まったときは交
戦資格を満たしている証明が困難になります。この点で不利となる場合もあるでしょう。

民衆軍が不利になる状況
『戦時国際法提要』(上)照林堂書店 信夫淳平著 P393
 要するに個々の抗敵者にして適法の民衆軍に隷属することの立証なき場合に於いては、之を捕らへたる敵軍により適法の交戦者たる資格を認められ、戦律犯を以って問わるるも已むを得まい。


重 要

(1)常備軍の構成者(職業軍人)は相手側に捕まった場合、一般に制服を着用していれば(ハーグ4条件を充たしているという前提があるので)無条件で捕虜資格があると推定される。
 
(2)民兵・義勇兵などの構成者(職業軍人ではないという意味での民間人)は相手側に捕まった場合、ハーグ四条件を満たしている事の証明が必要になる。特に問題になってくるのが第一要件「部下の為に責任を負う者其の頭に在ること」の証明である。適法の団体に所属していない場合は戦時反逆として処罰される。
 また、第二要件による「固着の標章」の装備、第三要件「公然と兵器を携行」については、軍民分離の条件であり要件を充たしていない場合には交戦者資格を否認される場合がある。

(3)群民蜂起(民衆軍)の場合でも第二要件「公然と兵器を携行」を充たしている証明が必要になる。実際問題として小銃や猟銃のような比較的大型の兵器であれば「公然と携行」に該当するが、小型兵器”のみ”を隠し持っていた場合には交戦者資格を否定される事がある。
 また、群民蜂起は集団行動が前提となっているので、敵対行動にあたって集団行動をしていた証明が必要になる。

(注 群民蜂起は単独個人の抗敵には適用されないという解釈が一般的で、条約文に「占領せられざる地方
の人民」とありますが、人民の仏文は”La population"、英文”The inhabitants"と集団である事が前提とされ
ています。「群民」とされているのはその為です)



 こういった不正規軍についての不具合は、ジュネーブ第一追加議定書43条で”大きく”修正
されました。簡単に説明すると「軍隊」の定義が拡大され正規軍・不正規軍の区別をなくすと同
時に特殊標章の着用の義務は廃止されました。第44条3項では≪ただし、敵対行為の性格
のため、武装戦闘員が一般住民から区別しえない状況が武装紛争中に存在することが認めら
れるので、そのような状況においてその者が、次の場合に、武器を公然と携行しているのな
らば、戦闘員としての地位を保持するものとする。『国際人道法』P35 モーリストレッリ著 斉藤恵彦
訳 白水社という風に不正規兵の交戦資格を最低限「公然と兵器を携行」する事で認められ
るとしました。


 







ハーグ陸戦法規第一条、第二条
第一条
 戦争の法規及権利義務は単に之を軍に適用するのみならず左の条件を具備する民兵及義勇兵団にも亦之を適用す
  一 部下の為に責任を負う者其の頭に在ること
  二 遠方より認識得べき固著の特殊徽章を有すること
  三 公然兵器を携帯すること
  四 其の動作に付戦争の法規慣例を遵守すること
 民兵又は義勇兵団を以て軍の全部又は一部を組織する国に在りては之を軍の名称中に包含す

第二条
 占領せられざる地方の人民にして敵の接近するに当り、第一条に依りて編成を為すの暇なく、侵入軍隊に抗敵する為自ら兵器を操るものか公然兵器を携帯し、且戦争の法規慣例を遵守するときは之を交戦者と認とむ
 
出展 
最近「国際法及び外交資料」 育成洞 松原一雄編
昭和17年12月初版 P224 より
(カナ使いや一部の旧漢字は訂正した。句読点は適時追加した)

 ハーグ条約第一条一項には「部下の為に責任を負う者其の頭に在ること」とあります。このリ
ーダー(指揮官)の条件について、ブラッセル会議でのロシア案では「本国、本営よりの指揮命
令の下に立つものたるを要す(戦時国際法提要 P380)」というものでしたが、これは不採用とな
って、ハーグ条約では「部隊の指揮統制ができるならば特に条件はない」という解釈で条約化
されました。

 この結果、不正規軍(民兵団・義勇兵団)の中でも「国家の指揮下」にある場合は正規軍(あ
るいは正規軍の一部として)活動できましたが、「民間人の指揮下」にある場合など国家の認
許をうけていない場合は住民の抵抗運動として扱われ、占領地域内では占領軍に対する敵対
団体の組織自体が犯罪として処罰されたのです(1949年ジュネーブ四条約で修正されて占
領地でもハーグ要件を充たしていれば交戦者として認められるようになった)
 
 もちろん、民兵団・義勇兵団が占領地域の外側で組織された場合は適法ですし、占領地域
外から相手側の占領地域攻撃を行い、相手側の占領地に戦線が移動する事もあるでしょう。
この場合、戦闘が行われているのは(厳密にいうと)敵味方入り乱れる作戦地域になりますか
ら、戦時犯罪として扱われる占領地における敵対行為には該当しませんので、民間人の指揮
する義勇兵団などでも交戦資格の喪失はありません。








   

新版『国際人道法』増補 有信堂 藤田久一著作 P84

 このように、不正規軍は正規軍より不利な条件ではじめて後者と並ぶ交戦資格を得ることができたといえる。
 

 以上のように、不正規軍が不利なのは、相手側に捕まった場合に捕虜資格を満たしている証明が必要である点と、被占領地域における敵対活動の制限などです。上記、藤田教授の記述内容を「正規軍は0条件(要するに制服着用の必要がない)」解釈するのは無理いう事がお分かり頂けたと思います。


  

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